高齢者や介護サービスの調査、研究から地域の仕組みづくりへ
特定非営利活動法人市民シンクタンクひと・まち社
活動エリア | 東京都内を中心 |
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ジャンル | その他 医療・福祉 |
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私たちの活動の基本となっているのは、高齢者に関する調査活動です。調査を通じて色々な人の意見を聴き、地域に必要な仕組みづくりとして、市民相談のしくみづくりや、利用者の視点でサービスを選択するためのチェックリストの作成など、地域に必要なしくみづくりをしてきました。
また、調査から見えてきたことは提言にまとめ、厚生労働省、東京都、各自治体にも提案して、制度の改正に活かしてもらえるよう働きかけをしてきました。厚生労働省では、利用者の意見というものがなかなか届かない中で貴重な調査だと評価されたり、NHKの取材を受けたり、ワシントン「第3回世界介護者会議」で「生活時間調査」について報告するなど、調査・研究では一定の評価を得てきました。
そうした経緯から、東京都福祉サービス第三者評価のしくみがスタートする際には試行からかかわり、評価機関として認証を受けて活動しています。現在の収入はこの評価活動によるものが中心となっています。東京都の第三者評価の大きな特徴の一つは「事業者評価」と併せて「利用者調査」を行うことにあります。利用者調査は、利用者の状況に応じて、聞き取りやアンケートなどで実施しますが、ひと・まち社のこれまでの経験を活かして、利用者の表情やしぐさなどから、言葉にならない思いや意向を汲み取って評価を行っています。
また、グループホームや特養では成年後見制度を利用する高齢者が増えてきています。介護保険のサービスは「契約」に基づいて提供されるものですが、はたして利用者の意向を反映した選択となっているのでしょうか。成年後見制度は介護保険制度の両輪として位置づけられ、判断力の低下した人の権利擁護を目的として普及を図っています。しかし、消費者被害は後を絶たちません。弁護士や社会福祉士など専門職だけでなく、身近に支援できる市民後見人をもっと増やしていくことが必要と考え、成年後見調査と市民後見人養成講座を行いました。事前の調査では、施設入所にあたって成年後見人をつけることを前提にする特養があるなど、利用者本人の権利を守るためのしくみとして成年後見制度の利用がすすんできていることが分かりました。市民後見人養成講座は3日間連続の講座でしたが、都内、近県から30名の定員を超える応募があり、成年後見制度の基礎などを学ぶ機会を提供しました。
これからも、調査を行う中から、地域に必要な機能作りなどを提案していきたいと思っています。
貴団体様の発起時のエピソードや理念等がお話の中心になると存じます。
65歳以上の高齢者比率が15%を超えた翌年の1998年、介護保険法が制定され、2000年から介護保険制度がスタートしました。それまで行政の措置による福祉が、利用者がサービスを選択できる契約制度へという大きな転換期となり、介護の社会化が実現することとなりました。しかし、制度誕生のときから、自治体の準備状況は不明確な点が多く、利用者からは保険料やサービスの量と質に対する不安が寄せられました。このことから、地域で活動する非営利に9団体で構成する、東京・生活クラブ運動グループ福祉協議会に共同調査の実施を呼びかけ、「介護保険制度検証のための実態調査」を実施しました。
この調査は高齢者に対する定点調査で、年2回、5年間の継続調査で、介護保険制度の対象者となることが予想される高齢者500人を東京都内全域からサンプリングしました。調査実施にあたっては調査員を募り、400名を超える方の応募があり、調査員のための説明会を実施し、2人1組で面接聞き取り調査を行いました。定点調査ですので、調査協力者のところに同じ調査員が何度か調査にお伺いすることになります。調査を繰り返すうち、調査員に対してさまざまな相談が寄せられるようになり、身近にちょっとした相談をできる場所を必要としている高齢者が沢山いることを実感しました。調査員からも、専門的な知識を身に付けたいという声が寄せられ、「市民相談養成のための連続講座」を何度か実施し、ロールプレイで傾聴の技術など相談員として身に付けるべきことを学びました。さらに、意思ある地域に市民相談の窓口をつくるための支援を行うなど、市民の声の中から地域に必要な仕組み作りを行ってきました。
また、利用者からは、選択できる制度と言われても、何を基準に選択すればよいのか、必要な情報もないという声が寄せられ、利用者自身がサービスを選択するためのチェックリスト作成に取り組みました。チェックリストは調査への協力者や、ホームページを通じて希望者に無料で配布し、選択のための手掛かりとしてもらうしくみ作りをめざしました。
ちょうどその頃、全社協、東京都による第三者評価の仕組みづくりが始まりました。利用者の視点で事業所を評価し、情報提供できる評価機関が必要と考え、評価機関として活動するために、2002年NPO法人の認証を受けました。評価室を設置し、現在、東京都福祉サービス第三者評価に取り組んでいます。
調査や第三者評価の利用者調査を通して、大勢の高齢者の声を聴く機会が多くあります。言いたいことを遠慮なく言える人もいますが、介護をしてもらっているという遠慮から、なかなか本当の気持ちを言えないという高齢者も多くいます。色々な話をする中から、高齢者の気持ちを引き出せたときはとてもうれしいです。
また、逆に聞き取り調査をする中で、人生の先輩として生きる姿勢を教えられたり、学ばせていただいたりすることも多々あります。頭の下がるような思いで支援をしている事業者にお会いすることもあります。大勢の人から色々なお話を聴けることは大変ありがたいことと思っています。
色々な人の思いをつないで、一人ひとりが生き生きと暮らせる社会につなげていきたいと思っています。
介護保険制度の導入を契機として、継続的に調査活動を行ってきました。今年度の介護保険制度の改正でこれまでの要支援1・2の利用者は介護保険制度ではなく、自治体の施策で地域包括ケアのなかで支えるしくみへと変わっていきます。団塊の世代の高齢化に伴って、これからの超高齢化社会においては、介護保険制度を、本来の「介護が必要な人」を支援するための継続性のある制度にしていくことが必要です。一人ひとりが介護予防に努め、できるだけ自分自身の健康管理を行うことは基本です。けれども、介護が必要になったときにも、一人ひとりの思いを大切にした生活が継続できるような社会であってほしいと思います、そのためのしくみづくりを目指したいと思っています。
これまで色々な団体からの助成金を受けて調査活動を続けてきました。今年度は、昨年度の調査に続いて、介護保険制度改正に伴う自治体調査とあわせて、高齢者への調査を実施していきたいと思っています。しかし、近年、調査・研究に対する助成はなかなか得られないのが実情となってきて、活動資金を集めるのに苦慮しています。大勢の方から寄せられた寄付をもとに、調査・研究活動を続けていきたいと思い、現在、認定NPOの仮認定を受け、本申請の準備をしています。弊社への寄附は税制控除の対象となりますので、寄附者となって活動を支えていただけるとありがたいです。
取材者のコメント | |
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古川勇樹 | 高齢者や介護保険に関する調査・研究は様々な機関が行っている中、手間も時間もかかり専門性も必要となるこのような業務を、市民NPOが行うのはなぜだろうかと思ったが、この団体が、高齢者へのヒアリング調査から介護サービスを利用者自身が選ぶためのチェックリストという実用的な成果物をまとめられたというお話を聞いて、市民シンクタンクの必要性を確信した。市民が何を求めているのかを意識している調査の設計や最終成果物の取りまとめだからこそ、他の研究機関にはできない、リアリティのある調査データが集まり、具体的で効果的なフィードバックができるのだと思った。 |
団体・プロジェクトの概要 | |
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代表者 | 工藤春代(代表理事) |
住所 | 東京都新宿区歌舞伎町2-19-13 ASKビル601 |
TEL/FAX | TEL 03-3204-4342/FAX 03-6457-6202 |
お問い合せ | npo@hitomachi.org |
URL | http://www.hitomachi.org/ |
主な受賞歴や実績
① 「介護保険制度検証のための基礎調査」1999年~2005年
5年間500人の高齢者に対する年2回の実態調査(計10回)を実施、6冊の報告書及び事例研究報告書を作成。全労済高齢者問題研究助成事業。
2002年10月ワシントン「第3回世界介護者会議」で「生活時間調査」について報告。東京都立大学人文学部社会福祉学科研究室委託事業。
② 地域福祉の市民相談養成とサポート事業。独立行政法人医療機構助成事業。
市民相談人養成講座の実施。市民相談マニュアルつくりと地域に市民相談事業の立ち上げ支援。
③ 「介護保険利用者によるサービスチェックリスト」作成。2005年
サービスを利用する側が事業所を選ぶ視点をセルフチェックする道具を作成。希望者に無料配布。
④ 「介護にかかる費用調査」2000年
「介護にかかる費用ノート」を作成。東京電力医療共済会委託事業。
⑤ 「介護予防と自立支援に関する高齢者実態調査」2006年~2008年
報告書4冊作成。日本郵便公社年賀寄付金助成事業。
⑥ 「市民が担う成年後見」後見ニーズ調査と成年後見連続講座の実施
日本郵便公社年賀寄付金助成事業。
⑦ 子育てに関する調査