トンボ保護区から人間と自然環境の関係について考える
公益社団法人トンボと自然を考える会
活動エリア | トンボ王国を中心とする全国各地 |
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ジャンル | 教育・学習支援 自然保護 観光 |
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高知県四万十市具同田黒池田谷(総面積約50ha)を舞台に、公共団体から個人まで多くのご支援を受けながら、トンボ王国(トンボの保護区=トンボ類を主体とするビオトープ)作りを行っています。主に、ナショナルトラストなどで取得した放置田を立地条件に応じたトンボ池として整備、その後も除草や土手の補修など常に人手を加えながら、よりよい生息環境の維持に努めています。また、審美的景観作りにも配慮しており、とりわけ初夏のハナショウブや夏期のスイレンは圧巻です。そのような保護区エリアはが2015年現在で借地(有償)を含め約8.7ha、事業開始前に60種だったトンボ記録種は77種となり(単一のフィールドで確認されたトンボの種類数としては日本一)、2004年以降1シーズンでの記録種が毎年60種以上を維持していることは特筆できます。
また、トンボ類を中心として多様な生物を育むトンボ王国では、「生きものさがしゲーム」や「親子トンボ捕り大会」など各種自然体験メニューも実施、自然保護区として以上に主に学童を中心とする多くの人々への環境・情操学習の場として活用されています。
さらに、公益社団法人トンボと自然を考える会が委託運営している保護区内の四万十市立「四万十川学遊館あきついお」では、トンボを始めとする野生生物の存在が私たちの暮らしに役立っていること、いなければ困ることを、日々の調査で得られる資料(昆虫標本・活魚情報・各種画像など)の展示を通して伝えています。
幼少時よりトンボの研究を続けていた杉村光俊本会常務理事が高校3年生の時、公共事業でお気に入りのトンボ生息地が埋め立てられたことから、ライフワークとしてのトンボ保護区作りを決意、数年間の各種調査を経て1985年、世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の支援も取りつけ、本格的な活動をスタートさせました。
データと経験を活かし整備と管理を続けてきた保護地から、狙いのトンボ種がうまく羽化してきた時や、保護地への来訪者が期せずして発する歓喜の声を耳にした時などです。
トンボ王国作りを通して実証した、生物多様性社会の実現は人手抜きには語れないということを広めることが当面の目標です。同時に、一種の生物として考えた時、人間は衣食住の材料や薬用として、さらには土や水など自然環境の浄化機能などなど、多様な生物の存在なくしては生きていけない弱い存在であるということを認識させていく必要もありますが、そのこと(生物多様性社会の実現は人手抜きには語れないということを広めていくこと)は、自然環境の保全や再生が雇用につながるところとなり、引いては都市優位の経済政策の中で疲弊一途の地方創生にもつながっていくと思います。
また今日、これ以上の進行は人類を含め現存する地球上の生物全てに絶滅の恐れがあると伝えられている温暖化の解決にもつながってくることでしょう(今日の状況は、約2億5千万年に三葉虫など当時生息していた生物の95%が絶滅したとされるペルム期の状況に酷似しているようです)。すなわち、今日の温暖化は化石燃料の過剰利用や主に熱帯林の過剰伐採など、植物がその体内に閉じ込めていた炭素を人類が経済活動の中で多量に放出させてしまったことが大きな要因であり、仮に日本全土が砂漠化したとしても、中南米や東南アジアなどに広がる広大な熱帯雨林を再生・保全することができれば大規模な気候変動を抑えることは可能ではないでしょうか。
そこで、ニイニイゼミの声は芭蕉に「岩にしみいる」と詠ませ、メダカやスミレなどの多くの野生生物が唱歌に登場するなど、優しさあふれる自然環境の中で、古来より花鳥風月を愛でてきた日本人が、先ず自然環境の保全を軸に地方経済を活性化させることができたなら、途上国と呼ばれる「世界規模での地方」の自然環境もまた経済的に守られる仕組みができるのではないでしょうか。
つまり、これまで生物としての人類存続を左右する自然環境(=自然生態系)は「お金にはならないが大切なもの」という考え方の下、「儲かるか儲からないか」でしか行動しない多くの人々によって破壊され続けてきました。具体的な例としては、日本全国で約200種が記録されているトンボ類のうち、2012年段階で50種余りが全国版レッドリストに選定されていて、都道府県、さらに市町村レベルで見れば絶滅種が目白押しです。この先も経済社会が存続していくならば、そろそろ「自然環境は人類存続に関わる大切なものだから、お金をかけて守っていかないと」という考え方に変えていく必要があると思います。トンボ王国の活動が広く認知されていくかどうかは、人類の存亡にも関わると考えているわけですが、飛躍し過ぎでしょうか?
まず、当トンボ王国へできるだけ多くの方々に足を運んで頂き、実際に日本一のトンボ保護区で生物多様性を体感して欲しいと思います。特に親御さんや教職員など、4~5歳から小学生中学年のお子さんと関わりがある方々には、トンボ王国の各種自然体験メニューを通じ、彼らに様々生き物との触れ合いを提供してあげて欲しいと思います。どうこう言っても、自然環境保全推進のエネルギーは子ども時代の「楽しい自然体験」であり、変な先入感がない子供時代にトンボやメダカなどの小動物を追いかける行為は、より大きな生態系保全への「必要悪」と言えるでしょう。
当然、これを実施していくためには一定のルール作りは止むを得ないとしても、子どもたちの破壊行為を許容できるだけの再生力に優れた「強い生態系」の維持が求められます。つまり、各種生物の増殖を図るため絶えず人手を加え、よりよい環境を維持していく必要があるわけで、例えるなら保護区は「耕作地」、トンボを始めとする子ども受けする野生生物は「作物」といったところです。多くの子どもたちを受け入れるためには保護区は広ければ広いほど好都合ですが、その維持には多くの人手も求められます。その意味で、会員としてこの活動を支えて下さる方が必要です。
現実的なこととして、現在の約8.7haの保護区のうち駐車場を含め約2ha分の借地に対し年間100万円余りの借り上げ費が必要で、これを会費や寄付金で賄っています。以前は、子ども時代にトンボと関わった方が多く、約1500名の皆さんが会員としてこの活動をご支援下さっていましたが、そのような世代の高齢化に伴い現在の会員数は約760名と半減しており、活動を継続していくために新規の会員勧誘が急務となっています。もちろん、除草作業など実際の管理作業へのボランティア参加も大歓迎です。なお、会員には保護区の近況などをお知らせする会報発送のほか、専門スタッフのフィールド調査にも同行でき、とりわけトンボを始めとする野生生物撮影を趣味としている方にとってはこの上ない特典になっています。さらに経済的余裕のある方には、一口オーナーなど保護区拡張にかかる用地購入のためのご寄付もお願いしています(税法上の優遇あり)。
著名な学習ノートの表紙から昆虫の姿が消えたことが話題になるほど、子どもたちの昆虫離れ、生きもの離れが進行しています。そんな時代だからこそ、子どもたちと生きものが仲良しだった時代の記憶を失わせないために、トンボ王国を存続させなければなりません。多くのご理解とご支援をお願いします。
取材者のコメント | |
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古川勇樹 | トンボを入り口として、自然環境と人間の関係についての深い考察やトンボ保護区の維持管理における行動理念について、大変丁寧にお話しいただいた。活動の中から得られた「生物多様性社会の実現は人手抜きには語れない」という実感のこもった言葉や、人類の存続にかかわる自然環境はお金をかけて守るものだという発想に変えていかなければならないという主張には、とても説得力があると感じた。また、この保護区があることで子どもたちは多様な生き物が暮らす環境は人の手で守られていることを学び、この活動を始めた方のように、環境の破壊に危機感をもつ感性が養われることだろうと思った。 |
団体・プロジェクトの概要 | |
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代表者 | 酒井泰一(理事長) |
住所 | 高知県四万十市具同8055-5四万十市立四万十川学遊館内 |
TEL/FAX | TEL 0880-37-4110/ FAX 0880-37-4113 |
お問い合せ | tombo@gakuyukan.com |
URL | http://www.gakuyukan.com/ |
主な受賞歴や実績
日本水大賞グランプリ(1999年6月)
会が四万十市具同田黒池田谷整備しているトンボ王国(四万十市トンボ自然公園)が、国内外の主なトンボ学会より日本一のトンボ保護区との認定を受ける(2014年3月)